探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード01 春先の訪問者

先週まで冬の空気を纏っていた新宿の街にも春の気配が訪れた。
桜の開花にはまだ間があると言うが、それでも確かに季節の移り変わりを感じる。
ここは新宿歌舞伎町、神宮寺探偵事務所。
歌舞伎町の片隅で助手と二人、不景気の波に抗っている。
俺の名は神宮寺三郎、この探偵事務所の所長だ。

「おはようございます。先生」

事務所のドアが開き、柔らかな声が耳に届いた。

「おはよう、洋子君」

定刻通りに出勤してきた彼女は、助手である御苑洋子。
数カ国語を使いこなす才女で、探偵としての腕もなかなかのものだ。

エピソード01 春先の訪問者

「今日は久しぶりに、お客様がいらっしゃいますね」

朝のコーヒーを淹れる彼女の声が心なしか明るい。
一ヶ月ぶりだろうか……この事務所に依頼人が訪れるのは。

「今日やってくるのは、君島弘樹、裕太という親子だったな」

洋子君は電話の隣に置いてあるファイルを見て、小さく頷く。

「ええ。お話によると、身の回りで危険なことが起きるとかで……。
 原因をつきとめたいと仰っていました」

「危険なこと……か」

親子で相談にくるということは、彼らの家に何かしらの問題があるのだろうか。
もしくは、家族の一人が誰かから恨みを買っているか……。
これまでの経験をもとに、様々な事態を推測していると事務所のチャイムが鳴った。

「いらっしゃったようです」

「ああ……」

俺は手にしていたタバコを消し、ネクタイを直す。
君島弘樹と君島裕太。
この二人との出会いが、長い事件の始まりになろうとは……この時は考えもしなかった。

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