探偵 神宮寺三郎 復讐の輪舞

Novel

エピソード06 不夜城の噂

久しぶりに神宮寺君と飲んだ翌日。
朝の淀橋署で、鑑識の三好と顔を合わせた。

「おはようございます、熊野さん」

「おはよう」

「今朝は機嫌がいいですね。
 昨日は神宮寺さんと飲んだんでしたっけ。元気でしたか?」

「ああ。いつも通り、危ない橋を渡っているような、
 いないような……そんな感じだったよ」

「変わりなくて何よりです」

メガネの奥の瞳を細めた三好の手には、小さな象の置物が握られていた。

「ほう……象の置物か。なかなか可愛い顔をしているな」

「ええ、幸運の置物とかで。“骨董屋ひととせ”の虎を覚えてますか?」

「ああ、雪村虎……ひととせの店主か。三好の大学時代の友人だったな」

“骨董屋ひととせ”は新宿の外れに店を構える老舗の骨董屋だ。
不景気で潰れそうになっていたところを、神宮寺君に助けられたのは、つい最近のことだ。

「この象は虎から貰ったインド土産なんです。
 ま、せっかくだからデスクに飾ろうかと思いまして」

手の中で小さな置物を遊ばせながら、そうそう……と三好が付け加える。

「最近、歌舞伎町のヤクザの動きが活発になってるって本当ですか?」

「小競り合いがちらちらと続いているようだ。面倒な事件が起きないといいんだがな」

気になる噂を抱える組はいくつかある。
その中のひとつを思い浮かべて、昨日の神宮寺君の話が引っ掛かった。
車と接触しかけたというが……まさか、あの組が関わっているのでは……

「熊野さん?どうしました?」

「いや、ちょっと気になることが出てきた。調べ物にいってくるよ」

ワシは最近の歌舞伎町での事件を調べ始めた。
鶴賀組という文字を探して。

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